フィールドフォースの商品ラインアップで定番のロングセラー、「スウィングパートナー」がリニューアルされる。2021年に発売された、現行モデルのFBT-360発売から4年。今回、新発売されるFBT-370は、フルモデルチェンジといってよいほどのアップデートとなっている。いま、あらためてスウィングパートナーに注目したい。
素振りを意味ある練習に
打撃練習の基本中の基本である「素振り」。バットを振る力をつける、打撃フォームの習得、安定した動作の再現性を高める、といった体力、技術的な目的はもちろん、集中力を高めるといった意味合いまで、様々な効果が期待できる“深い”練習だ。
しかし、単純であるがゆえに、とくに低年齢選手の場合、気づけば回数をこなすことが目的になってしまったり、漫然と、ただバットを振っていた、などというケースが少なくない。そんな、ともすれば単調になりがちな素振りを脱し、一本一本のスウィングに明確な「意味」と「目的」を持たせてくれるのがスウィングパートナー。ひとり練習の頼れる相棒だ。
初代のスウィングパートナー、FBT-300が発売されたのは2009年。フィールドフォース創業の2006年から、3年後のことである。
ティーバッティングで使うスタンドの土台をホームベース型にし、その中心に取り付けられた支柱の上部には、接続部分がジャバラ形状で、先端の白く丸いターゲットが特徴的な、ゴム製のダミーボールが差し込まれている。ちなみに、ダミーボールは素材に多少の変更こそあれ、現行モデルまで変わっていない。ダミーボールを取り外してボール受けに付け替え、ティースタンドとして使える構造も不変だ。
ダミーボールを使うことで、実球を打つティーバッティングのように防球ネットは必要なく、単なる素振りに比べ、明確なターゲットに向かってバットを振ることができる商品として売り出された。
「ただ、このFBT-300は短命でした。間もなく、よりバリエーションに富んだスウィングに対応すべく改良した、FBT-350を出したからなんです」
社長の吉村尚記がが当時を回想する。
改良を加えながら、長く愛されるベストセラーに
ほどなくリリースされたFBT-350は、形としては現行のFBT-360に近い。ホームベース型の土台に付けたL字型の支柱にも脚を付け、2点で支持する形に変更したことで、安定度を増している。また、土台の中央を支点として、L字支柱を360度、円を描くように動かせるようにし、ダミーボールをインコース、アウトコースと、好みのコースに設定することができるようになった。また、支柱自体も伸縮できるようにし、高さも設定できるようにした。
基本的には、このFBT-350で、現行商品と同じ機能が備わったことになる。
「ですが、このFBT-350も短命でしたね。すぐに改良型を出しました」 と吉村。基本的な機能はそのまま、ほどなく、より使いやすく改良したFBT-351を発売したのだ。
FBT-350では土台と支柱にいくつかの小さな穴をあけ、そこにストッパーをかませて高さとコースを設定することにより、多段階調整を可能にしていた。FBT-351では、それをすべて締め付けパーツで固定する構造に変更し、コースも高さも、無段階で調整できるようにしたのだった。
FBT-351は長らくモデルチェンジすることなく、9年間にわたって販売され、累計7万台以上を売り上げる、大ベストセラーとなった。
9年間売れ続けたFBT-351
が、もちろん、「100点満点の商品はない」フィールドフォースにとって、FBT-351が最終形ということはない。
「もちろん、改良すべき点もあったのですが、このときのモデルチェンジは、それ以外の要因もあったんですよね」
改良点は、高さの設定だ。FBT-351は75cmから115cmまでの高さで無段階調整を可能にしていたが、メインユーザーは学童野球選手。低年齢層の選手にとっては、最低設定の75cmでも“低め”とは言い難い高さなのだ。もっと低い位置まで調整できれば……との声が寄せられていたのだった。
「そうしたユーザーの方々の中には、レンガなどを台にして、自分が一段高いところに上がって構えることで、ヒザ元のボールの対策をしてるんです、というような声をいただいたんです」
そのため、FBT-351には、低め専用の支柱をオプションで用意するなどして対応を進めていたが、新たに開発したFBT-360では、本体だけで55cmの低めから調節できるように改良したのだった。
そしてもうひとつ。改良点以外で、リニューアルを促した要因というのは、原材料価格の高騰である。
2021年。コロナ禍による、あらゆる物の供給不足と原油高に、円安も重なり、世間では商品の値上げラッシュが続いていた時期だ。
「現状の価格維持が難しくなっていたんですよね。それもあって、商品改良による新型の開発が進んだのです」
原点に返ったFBT-360
新たに登場したFBT-360は、原点に返って構造を見直し、できるだけシンプルな作りにした。部品数を少なくしたことで、世の中のあらゆる製品が値上げする中、FBT-351よりも低い価格設定で売り出すことができたのだ。
販売期間が違うため、9年間売れ続けたFBT-351には及ばないものの、これも現在まで販売好調が続く、ロングセラーとなっている。
とはいえ、気になる点も……。
「本末転倒と言ってしまえばそれまでなのですが、シンプルな構造にしたがゆえに、本体が軽くなったんです。これが災いし、安定性が下がってしまった」
重量4.5kgのFBT-351に対し、FBT-360は3.5kg。ダミーボールの中心を外してスウィングすると、本体が容易に動いてしまうのだ。
また、低めに対応できる設定にした影響で、高めの最高設定が88センチと、10cm以上も下がってしまった。「学童野球選手がメインのターゲットとはいえ、中学、高校生から大人まで、対応はできた方が良いですからね」
こうして、5代目のスウィングパートナーとなる、新型FBT-370開発の機運が高まったのだった。
新登場の“関節”がスウィングパートナーを変える!?
吉村には、歴代のスウィングパートナーの開発や、ユーザーの声を踏まえて、長い間、実装したいメカニズムがあった。
「支柱に、関節をつけたかったんです」
支柱が関節のように、自由に折れる仕組みを取り入れたかったのだ。
「これまでのダミーボールでは──ダミーボールじゃなくて、実球が打てる「ボール置き」に付け替えても、それは同じなんですが──ゴム部品の根元部分1点に力がかかるために、根元部分が破損してしまったり、締め付け金具で固定していても、外れてしまったり。支柱に関節をつけることができれば、ダミーボールやボール受けが受ける衝撃は、かなり低減できると思ったんですよね」
こうして、適度な力で支柱が折れるような関節構造が取り入れられることになった。
「問題は、折れた支柱が自力で元に戻ることを可能にする構造でした」
試行錯誤の末にたどり着いた答えは、バネなどではなく「ゴム紐」だった。
「これが一番、自然で丈夫。ビニールのパイプで覆うようにしてやれば、表面の劣化もかなり抑えることができます」
試作を重ね、満足できる強度と耐久性を持つ“関節”が出来上がった。関節が衝撃を受け止めてくれることで、ダミーボールにかかる負担が少なくなり、固定金具なしでも、ダミーボールが支柱から外れることもなくなった。
また、支柱をこれまでの中空のスチール角材からソリッドの鉄板に変更し、重量も5.5kgと、FBT-360から2kg増えて安定感が増した。
まだ開発は続く……
関節による衝撃緩和により、ターゲットを外して振ってしまった場合も本体は安定を保っており、本体が動いてしまうようなストレスは軽減される。新たに関節を設けたことによる一番の恩恵はこれか──と考えていたのだが、吉村の狙いは別のところにあった。
「関節は一方向にしか折れてくれません。つまり、狙った角度でバットを振り出し、正しくダミーボールにヒットしなければ、関節が機能しないんです」
関節の向きもダミーボールの向きも、無段階で調節が可能。つまり、バットがボールに当たる角度も計算に入れ、ボールを飛ばしたい方向に関節を固定し、ダミーボールをセットすることで、「インコースのボールを引っ張る/流す」「アウトコースのボールを引っ張る/流す」といったように、自分で状況設定して、練習に取り組むことができるという仕掛けだ。
機材としての安定度は増しつつ、使用者には、より精度の高いスウィングを要求する仕様変更。単なる素振りでは、なかなか頭でイメージしづらい状況まで簡単にセットでき、そのコースと高さ、そして自分のスウィング軌道まで想定して、練習に取り組むことができるようになったということだ。
もはや、単なる“素振りの補助機器”からは、かなり進化したところまで来た感があるスウィングパートナー。それでも、これが完成形ではないと、吉村は言い切る。
「バッティング、スウィングに関しては、次々と新しい理論が出てきます。流行のようなものもあり、正解というか、ゴールはないと思うんです。だから、スウィングパートナーも、そのときどきに合わせて進化していく必要がある、と考えています」
定番にして、定番にあらず。シンプルだからこそ奥が深い、スウィングパートナーの進化なのだ。